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「ローカルでやるからローカルレベルじゃなくて、ローカルでやるからこそ世界でも通用するぐらいのお金の投資、考え方であるべきだと思っています。今はここをベースとしていますが、そのぐらい世界を考えてます。」
そう話すのは、Tadaima coffee・はじめた人の和田昴憲(わだたかのり)さん。

Tadaima coffeeは、『コーヒーを通じて「ただいま」と言いたくなる場所をつくるお手伝いをする』をミッションに、日立市でコーヒー専門店を運営しています。はじまりは2017年2月。当時26歳だった和田さんが地元・日立にUターンし、起業。現在、店舗での豆の焙煎&販売はもちろん、出張コーヒーセミナー、地元菓子店とのコラボレーション商品の開発、カフェ開業のサポート、ローカルキャリアや学校関連の講座・イベントに講師として登壇するなど、地域に根付きながら事業の幅を広げています。

企業の原点と大切にしていること

Tadaima coffeeが大切にする3つのことは、『ただいまという場所をつくるお手伝い』『地元からスタートしたい』『コーヒーのある暮らし』です。
僕が将来コーヒーを出すお店を持ちたいと思い始めたのは、中学生のとき。その頃から喫茶店が好きだったんですね。高校では大好きなサッカーに没頭するも、怪我に悩まされ、苦しいときにどう乗り越えるかを学びました。受験では第一志望の大学に合格できず、一浪して京都の大学に。大学では国際関係について学び、海外インターンシップに参加したり、まちづくりや観光ビジネスの勉強会にも足を運んだりと、自分の可能性を広げるために積極的に動きました。大学卒業後、レストランやホテルを運営する東京のベンチャー企業に入社したのですが、必死に働きすぎて体を壊し、無気力状態に。軽いうつ病との診断を受け、3ヵ月で退職。帰省のたびに寂れていく故郷の姿を見て、「早く結果を出して出世し、地元に戻って地域に貢献できる事業を立ち上げたい」と焦ってたんですね。

その後、プライドやこれまで自分を縛っていたものをすべて手放して、これからのことを考えようと思い、沖縄の離島にあるリゾートホテルで働きながら暮らすことにしました。でも、家族や友人には話しにくかった。ダメな奴だと思われるかもしれない、受け入れてもらえるだろうかと。しかし、いざ帰省してみると、みんな変わらず迎えてくれて…自分にはどんなときでも安心して帰れる場所があるんだと、身に染みて感じました。僕もそんな場所をつくりたい、このとき強く思ったんです。

離島での暮らしに慣れた頃、公務員を辞めて愛知で自家焙煎のコーヒー屋を始めた人の記事をウェブサイトで目にしました。この人のもとで学びたいと感銘を受けた僕は、手紙を書いて会いに行ったんです。修行させていただけることになり、関わるすべてのものの幸せを考えることや、自分と向き合う大切さを学びました。そして2年後の2017年2月、茨城県主催のビジネスコンペに出場し、結果は優秀賞。日立に戻って起業することを決め、7月にはクラウドファンディングに挑戦。目標額の189%(113万円)でサクセスでき、その後1年、コーヒーセミナーを開催したり、地元の人からの紹介で地域の人とのつながりを増やしたり、仲間の協力を得ながらお店づくりをしたりと準備を進め、2018年1月、日立市若葉町に店舗をオープンすることができました。

そもそもなぜコーヒーか。それは僕にとって「大事なことに気づかせてくれるもの」だからです。コーヒーを飲んでいると「はぁっ」とゆるむ。本当の自分に戻れる瞬間、自分がどう感じているかを感じる瞬間はすごく大事。だから気持ちによっても味が変わるんですよ。それらはコーヒーの宇宙的な力だと思っていて、それがまたコーヒーを愛している証拠でもあるなと。ただ好きなんじゃなく、とことん向き合いましたからね、コーヒーと。

経営の転機

お店のオープンから10ヶ月、僕と同世代の男の子がチームに加わりました。当初はぬくぬくと、ひとりでできる範囲でやっていこうかなという構想だったので、こんなに早く正社員みたいな形でメンバーが増えるとは思ってもなかったですね。

その頃、物理的に僕一人じゃ回らなくなってきて、睡眠3時間でもできちゃうくらい楽しかったのですが、持続可能ではないだろうと。そこからチームでやっていかないと、自分にできることって本当に少ないなと考え始めました。ちょうど新店舗のお話もいただいていて、それこそ一人じゃ無理じゃないですか?そんなタイミングで、コーヒー店での勤務経験がある彼が来てくれたんですね。

ただ、最終的に新店舗については辞める決断をしました。チームづくりをちゃんとしてからのほうがいいなと思ったからです。入ったばかりで彼に「じゃあ任せた!」は厳しいでしょうし、僕自身も大きな方向性を示せていなかったですし、コミュニケーションも不足していた。お店としては成り立つかもしれないけど、サービスが落ちたり、方向性がズレたりして、なんかモヤモヤしたまま同じ時間を過ごすことになるだろうと目に見えていたんですね。とてもいい条件でお話をくださって、コンセプトやメニューまで決まっていたのですが、このまま進んでも空中分解するだろうと思い、「ごめんなさい今じゃないです」と。

彼を受け入れるとき、「あ、次のステージに行ったな」という感じがしたんです、事業主として。アルバイトではないので、彼の20代という貴重な人生も預かることになる。中途半端な覚悟じゃないとダメだなと思い、そこに僕の勇気はあるのか?彼がここにいることが彼にとっていいことなのか?チームにとっていいことなのか?ちゃんとお金が回るのか?そういったことを全て考えて決めました。

これは僕自身の弱みでもあるんです。今はだいぶ緩和されたんですけど、人とダイレクトにコミュニケーションするのが結構苦手なんですね。感情をさらけだして、本気で一緒のものにぶつかっていく楽しさを知る一方で、その怖さも自分なりに分かっていて。人を雇うということは、そんなに甘いものじゃない。人生をかけてといったら大袈裟ですけど、それぐらいの覚悟をしないとお互い不幸になるなと思ったんですよね。だからこそ、新しい人を迎え入れる部分はしっかり考えていきたいなと。

地域への想い

地方で働く良さのひとつは、打席に立てるチャンスは多いかなということ。打席というのは、人と違うこと、目立ったことをすると注目してもらえて、しゃべってほしいとお声かけいただけること。例えば僕だったら、「20代・Uターン・起業、周りにいない。とりあえず話を聞いてみたい」とか。きっと僕は世の中のトレンドに乗ったとは思うんですが、でもそれって他の分野でも言えるんです。なぜなら、やってる人が都会より圧倒的に少ないから。打席に立つと責任感や覚悟も伴うので、学ぶ量や自分で思考する量が圧倒的に違ってきます。それはきっとその人の人生を豊かにすると僕は思いますね。

仕事をいただける、それを120%で超え続けるとちょっと難しい仕事がやってくる、それを限界突破して…と、その積み重ねでしかないんですよ。当初は2時間1,000円でコーヒー教室をしてましたし、言われたらどこにでも配達に行ってましたし…そのときは無我夢中で分かりませんでしたが、今振り返ってみるとそれが財産となり、いろんな仕事をいただけるようになったんだなと。仕事が仕事を呼ぶという意味が今になって分かりました。

これまで約25媒体のメディアから取材していただきましたが、僕は日立だからこんなに取材されていると思っています。東京で同じことをやったら、変わった名前だねというぐらいで、その辺にある普通のコーヒー屋という認識。それは重々承知ですし、満足はしていません。ローカルでやるからローカルレベルじゃなくて、ローカルでやるからこそ世界でも通用するぐらいのお金の投資、考え方であるべきだと思っています。それぐらいじゃないと僕は嫌ですね。やり遂げたいことも絶対無理でしょうし。

今はここをベースとしていますが、そのぐらい世界を考えてます。アメリカの人々がTadaimaCoffeeを飲んでるシーン、TadaimaCoffeeとなにか取引をしているシーンが思い浮かんでますし、世界を意識して「ただいま」という名前にもしたんです。僕は日立から始めたいというだけであって、本当にお金持ちになりたいとか世の中を良くしたいなら、たぶん違う方法がある。その中で僕は自分の好きなライフスタイルで、家族ともすぐ会えて、かつ、まちのためになりながらも自分が成長できるのは、日立から自分の個性を活かして起業することだなと思ったので、『IN日立ではなく、From日立』。

茨城で活躍する同世代の存在は、とても刺激になるしありがたいし、先輩方に対する悔しさとはまた違う悔しさもありますね。勉強させていただくというのはもちろんなんですけど、対抗心もあるんですよね、同世代となると。これは男の闘争本能みたいなものなんだろうけど、僕は世界の同世代に対しても同じように思っています。負けず嫌いなんでしょうね…でも、そういうものも大事にしたい。

働き方について

ここをベースキャンプとして片脚だけツッコんでおいて、もう片脚は自分の活動をしている、そんな組織をつくっていけたらなと考えているところです。例えば、大きな方向性や、こういうために仕事しています、こういうことを大切にしていますというのは一緒。だけど、ずっと店舗にいなきゃならないのではなく、個々のスキルを外で最大限に活かすことができる。社会保険は折半持ちながら、週3ここに来て週3どっか行く。そういう方向性にしていきたいです。

IT系やデザイナーだったらそれは容易に成し遂げられると思うのですが、製造業や小売業やスモールビジネスでも、そういった働き方をなんとか実現できないかなと。思い浮かべたということは、僕はできると思っているので、今勉強しながら仕組みを探っているところです。

新店舗をバンバン作って、従業員50人60人と大きくして、ってことにはわくわくしません。ワンピースじゃないですけど、大きな方向性はありつつそれぞれキャラ立ちする。2枚の名刺でそれぞれが働いて、経済的に豊かであればそれでいいんじゃないかなと思っています。 このような働き方は誰かから教わったわけではないけれど、以前から漠然とイメージはありましたね。あえて原体験をつけるとしたら、沖縄の離島でのことでしょうか。自分とは全く違う世界の人がたくさんいたので(笑)僕はわりといい大学に入って、大手企業や官僚に行くのが普通、外れてもベンチャー企業。だったのが、「いやいや、俺旅してるよ~。夏はみかんやってるけど、冬はずっと旅してるんだよね~」みたいな(笑)すげぇ~、あぁ素敵だな~と衝撃的でしたね。

最近は、1on1というカジュアルな面談を2週間に1回取り入れるようにしています。隣や向かい合わせに座り、コーヒーを飲みながら1対1で15~30分ほど話をします。僕はほぼ聞き役に徹する。そうすると普段話していない話題が出てきたりするんです。立ち話でコミュニケーションはできちゃうんですけど、座ってゆっくり落ち着いてしゃべると、違った会話が生まれることも多いんですね。そこで方向性を合わせることもできますし、僕が何を考えているかもお伝えできますし。これは変わらずやっていこうかなと考えています。

やはり任せる側がいかに「信じているか」を行動で示すことが大事だなと思っています。僕の場合は、隠し事はせず、貯金残高も全部見せたり、研修費を持ったり。一緒に働く人は、知らないところで意思決定されるのがすごくストレスだと思うんですね。問題が起きているのに「いいよ気にしなくて」みたいなのも、きっとそうではないかなと。だったら包み隠さずに言うべきだし共有すべきだし、ここに関わっていると自分が成長できるという分野でもちゃんと貢献すべきだろうと。

ここで働く人がここに関わる時間が増えれば増えるほど、その人の自己実現につながる。そんなベースキャンプになれば。コーヒーも大好きだけど、コーヒー以外の何かお役立ちを僕ができるかもしれない。従業員にとっても「ただいま」と言える場所でありたい。夢物語だと言われるかもしれないけど、それぐらいにはなりたいですね。

求める人材について

明確にスキルを持っていなくてもいいのですが、TadaimaCoffeeの価値観や、大きな方向性に共感してくださる方がいいですね。ただここに来て「豆だけ詰めて終わりでしょ」って人はいらないですね。

主に担当してもらうのは、接客、製造(焙煎した豆をハンドピック、袋詰め、卸先への発送準備など)、テイクアウト用のコーヒー抽出。慣れてきたらSNSやHPの更新、電話対応もお願いしています。顔出しやメディアへの露出に抵抗がない人、そういう感度のある人だと、なおさら嬉しいですね。

ここはソムリエじゃないですけど、お客様のことを聞いてご提案するという接客スタイル。お客様がどういうニーズで来店されているのか、自分用なのか手土産用なのか、どんなものが好みなのか。僕たちはコーヒーのプロですが、サービスのプロでもあろうと思っているんですね。だから、そういうところにも共感してくださり、情熱を燃やせる人でないとなかなか難しいかもしれません。

ベストなことを言えば、僕より経験も能力もスキルも高い人が入ってくれたら嬉しいです。自分で勉強して仕組みを整えていくのはもちろんなんですけど、もともとやってきた方にがちっと仕組みを作っていただけるほうが断然早い。僕としては傷つくけど、組織としてはそっちのほうが早いわけですよ。例えば、大手IT企業でプログラミングをやってた人が「こんなウェブサイトじゃダメっすよ~」なんて言いながらバババ~っと直してくれる人とか(笑)それが一番理想ですけど、その方にメリットを与えられないので、実際には副業人材という形でお手伝いをいただいています。今、副業という形で携わっていただいているのは、東京在住のお二人。オンラインミーティングがベースですが、茨城に矢印が向くとか、日立に来てくれるといったきっかけにもなり、関係人口にもつながっていきますよね。

先輩社員の話

2018年11月にメンバーに加わった神定祐介(かんじょうゆうすけ)さんは、現在店長を務めています。神定さんのこれまでと今、そしてこれからについてお話をうかがいました。

※神定さんインタビューのリンク

これからのこと

大きく3つのことに時間を割くと考えると、まずひとつが『常陸フロッグス(Hitachi Frogs)』の活動。これは沖縄で生まれた『Ryukyu Frogs』という、世界と沖縄をつなぐグローカル志向の若手イノベーターを発掘・育成する取り組みの茨城版で、僕は運営メンバー&メンターとして携わっています。僕のビジョンである『生まれる環境関係なく、頑張りたい人が、頑張れる社会をつくる』にも共通していますし、日立市や茨城県にとっても素晴らしいことです。TadaimaCoffeeの今後にもつながることなので、時間を使ってますね。

ふたつめは、最近メンバーに選出いただいた『日立市5ヶ年総合計画 有識者会議』についてです。まちづくりやりたいと言葉にするだけじゃなく、日立市ってどういう事実があって、行政がどういうことをやろうとしているのかを頭に入れて、自分なりのまちに対する意見を持てるようにしたいと思っています。

そして最後はTadaimaCoffeeのこと。今年の一番大きなテーマは『和田商店からの脱却』なんです。要は、僕がひとりで初めて、僕に会いに来てくださるお客様が圧倒的に多いんですね。そこはしょうがないですし、それがドライブになって組織が成長していくので否定はしませんが、それだと僕がいないことでガッカリさせてしまうときもありますし、僕がずっといなきゃならないとなると他の業務ができなくなる。ですから常連さんには「僕がここにいないワケは、和田商店からTadaimaCoffeeという組織に成長していくために、組織としてこういう方向に進んでいくために動いているんです。」と伝えていて、つながりを絶つのではなく、何か違う形でつながることができないかなと探っているところです。

年末か来年には法人化できたらいいなとも考えています。なんとなくパッと切り替えるよりは、意思表示のターニングポイントにしたいので、今後こういう位置、こういう見られ方で進んでいきますと決めてから法人化し、それをお客様にもきちんとお伝えしようと。

お客様と一緒に作り上げるお店にしたいんです。例えば、新商品のブレンドコーヒーを作る際、お客さんに募集をかけ、一緒に会議をしてもらい、作り手にまわっていただく。自分の名前や意見を出すと、意識が変わるし楽しいですよね。それがまちの作り手を増やすきっかけとなったら、まちづくりにつながったらいいなとも考えています。

日立出身と答えると、「TadaimaCoffee発祥の地だよね!」という会話が生まれている。
日立の人が誇らしく紹介できる組織を目指して。

一度、和田さんや、他のスタッフと話してみたいという方からのご応募を、心待ちにしています。

Writer Profile

柴田 美咲

ライター、フィットネスインストラクター。1990年生まれ。茨城県日立市出身。沖縄が好き。島旅が好き。東京の体育大を卒業後、地元のスポーツジムで働くためUターン。2015年よりフリーランスに転身し、日立市や大子町で健康の維持・増進のためのクラスやイベント、講座を担当。また、大好きなふるさとの風景、物語や人の想いを未来につなぐため、「ひたちのまちあるき」「まちキレイ隊ビーチクリーン」を企画・運営。2016年からはライター業に挑戦。

Photo:鈴木 潤