「結果として一人も採用に至らなかった、でもいいと思っています」

驚きのことを口にしたのは、インクデザイン合同会社の代表社員であり、デザイナーの鈴木潤(すずき・じゅん)さん。日立市出身で、インクデザインを立ち上げた張本人だ。

「この仕事は基本的に辛いから、本当に好きじゃないとできない。『作ることが好きで、デザインが無かったら生きていけない。でも人と接するのは苦手』くらいの方が、僕はいいと思っています」

鈴木さんはコロナ禍で会社の在り方にぶつかった。そのとき「チームであること」や「稼ぐこと」について考え抜き、経営者として指針を見出した。そして社会情勢が不安定ななか、インクデザインが掲げる「punk.」の精神においてデザイナーを採用することを決意する。以前から挑戦をしたかった、地方に居住する人も対象にした募集だ。特に、鈴木さんの出身である茨城県からの応募に期待している。

「デザインで生きていく」

そんな強い意志を持つデザイン経験者や入門者に、鈴木さんの想いを届けたい。

「チームでありたい」、コロナ禍で再認識

インクデザインの拠点は、ものづくりの盛んな下町、東京都墨田区にある。印刷会社が運営する「co-lab墨田亀沢:re-printing」というシェアオフィスに入居しているため、印刷技術者が身近にいたり、他のクリエイターと交流したりと、デザイナーにとって刺激のある場所だ。

今年で8年目となるインクデザインの社員は10人。IR情報や企業のウェブサイト、パンフレットのデザインが業務の中核となる。新型コロナ対策として全員がテレワークをしていて、必要に応じた出社やオンライン会議で仕事を進める。今でこそテレワークでの仕事が順調になってきたが、当初は経営者として頭を抱える状況だったそうだ。

「デザイナーってパソコン仕事なのでテレワークが合っていそうで、向いていない面もたくさんあるんです。とにかくアイデアが出しづらい。雑談から生まれる面白さが全く無くなるんですよ。『仕事』というより『作業』になってしまうので、チームでやる意味があるのかを、ものすごく考えました」

全社員がテレワーク勤務になったのは2月半ば。「長くても3月いっぱいだろう」という予想に反して今に至る。チャットツールで指示や報告をするので、感情というノイズが無いぶん作業が効率的だった。しかし鈴木さんはお互いの感情がわかってこそ「チームでの仕事」なのだと考え始めたそう。

そんななか、気持ちの落ち込みを訴える社員も出てきた。鈴木さん自身もストレスを溜めやすいと自覚し、メンタルヘルスはテレワークの普遍的な課題であると感じて、オンライン面談を増やしたり、出張に同行してもらうようにしたりと対策をした。

一体感を取り戻したのは8月のこと。チーム力の低迷を案じた鈴木さんが集合写真の撮影を提案した。いつもは別々の場所で仕事をする社員が久しぶりに顔を合わせ、プロカメラマンのシャッターに身を委ねると、みんなの安堵の想いが写り込んだ。

「自立したプロ集団」としてのインクデザイン

もう1つ、コロナ禍で深く考えたことがある。

「志村けんさんが亡くなった頃に、自分の死の可能性も本気で考えて会社関係のエンディングノートを書きました。みんなで共倒れになる会社は嫌だな、と。だから社員それぞれがプロとして自立して、自分のスキルをセーフティネットにして欲しいと思うようになりました。そのために大事なのは『人間力』。そして妥協の無いアウトプットをすること。そういう『自立したプロ集団』であろうと心に決めました」

人間力をプロの素養に据えたのは、鈴木さんの経験からだった。鈴木さんは東京に憧れて日立を離れ、大学のゼミでMacintoshのパソコンに出会い衝撃を受け、デザインの道で生きることを決意した。しかしデザインの学校を卒業していないことからデザイン会社に就職ができず、印刷会社に入社。社内にデザインの仕事が無かったので新部署を立ち上げ、飛び込み営業を続けてデザインの仕事を開拓し、後にインクデザインを立ち上げた。自分の未熟さが仕事に影響したり、上から目線の人を目の当たりにしたりと、デザイナーである以前に人として誠実であらねばと思うようになった。

「社内では結構厳しく言うこともあります。特にメールの書き方とか人への接し方。上から目線になるから語尾に『ね』を付けるなとか、細かい所をしつこく言います。相手に不快な思いをさせないことが一番大事だし、何より相手の立場になって物事を考えることって、デザインの本質だと思うんです」

コロナ禍での苦しさにとことん向き合ったことで会社の指針が改めて定まり、次のフェーズに入っていった。

採用の絶対条件は「作ることが大好きな人」

次のフェーズ、その最初の挑戦が今回の採用と言える。

鈴木さんは2017年から日立にも拠点を置いて茨城の仕事もするようになり、いつか地元で採用できたらと思い描いていた。また、地方の仕事の数が増えるにつれ「デザインに地方も東京も無い」という本質に近づき、そんな折に新型コロナでのテレワーク化となる。東京でも地方でも、はたまた場所に囚われたくない人でも応募できるボーダーレス採用を決意した。

採用の条件はこう。パソコンなどの機器やソフト等は会社から支給。Wi-Fi費としても使える在宅手当が出る。デザイン経験者を第一希望にしているが、かつての鈴木さん自身がそうであったことから、ある程度のデザインの素養があればデザイン入門者でもエントリーできる。

在宅の仕事を探している人には魅力的な内容だが、絶対に外せないポイントがあるという。

「ちょっと面白そうだからという動機は、甘いと思っています。面接でポートフォリオを持ってこない人や、ポートフォリオが学校の課題だけの人は正直厳しい。あと質よりは量を見ます。頼まれてもいないのに勝手に作品を色々作って、それについてたくさんしゃべるような方は『いいな』と感じます。服装がぶっ飛んでいても、人と接するのが苦手でも『デザインが無かったら生きていけない』、そんな方と会いたいです。作ることが好きで、手を止めない人が好きですね」

東京にも地方にもに囚われない仕事を

デザインが好きであることを重視する最大の理由は、「デザインの仕事は辛いから」だそう。答えの無いことに向き合いアウトプットをしていく連続は、楽ではない道であり、戻らない覚悟が必要だ。その茨の道を歩き続ける鈴木さんが、とても幸せそうな顔でこう言う。

「二十歳くらいのときにデザインに出会って脳天をかち割られたような衝撃を受けてから今まで、ずっと失神しているんじゃないかってくらい、今好きなことをやれている感が半端ないです。誰かの良いアウトプットを見て嫉妬と悔しさに押し潰されることばかりですけど。一生付き合っていくその辛さと表裏一体の至福を、入社する方にぜひ感じて欲しいんですよ」

その至福に到達するため、地域に囚われない仕事を数多く経験することが成長の鍵だと鈴木さんは言う。

「東京と地方、両方の案件を垣根無く担当して、一件一件のデザインに真摯に向き合って欲しいです。様々なスピード感やコミュニケーションスキル、立ち振る舞い、ある種の理不尽などに揉まれることは、成長する上で大事なことだと考えています。」

多くのデザイン会社がそうであるように、研修は無く実践で学んでいくことになる。状況に合わせてオンライン面談や出社をして仕事を進めるため、自分で成長の足がかりを探す強い主体性が必要だろう。

「こういうスタイルが普通になっていくんじゃないかと思います。新型コロナの前にも、ある社員が3ヵ月アメリカでテレワークをしていたので、僕はもう誰がどこにいてもいいと思っているんです。しっかり実力が付けば、外国でもどこでも問題無いです。価値観も広がっていくと思うので」

経営者「鈴木潤」

インクデザインの舵取りをする鈴木さんの考え方を、もう少し聞いてみた。

「新型コロナの混乱のなかで、自分たちだけが生き残ればいいという人が結構見えてきちゃったんです。それで『お金を稼ぐってどういうことなのか』って考えるようになって、『何に使うか』が重要だと思い、『人に使おう』と決めました。」

実際、ワークショップやプロジェクトの参加や英会話など、鈴木さんは社員の経験や体験にお金を出してきた。

「得たお金は人に使っていく。今回の採用もそれに近いです。人に投資をすることで世の中が少しでも良い方向に行くのなら、それでいいのかなって」

ここまでの話で、課題を見つけては向き合い尽くし、それに対して行動に移してきた鈴木さんが幾度も登場した。それは、インクデザインが掲げる「punk.」という精神に由来する。

「攻撃的な意味に勘違いされるんですが、僕が言いたいのは『内面の衝動を押し殺さないで出す』というマインドのことなんです。疑問を『課題』としてしっかり捉えて動き出すことを大事にしています」

実はこの記事が掲載されている「いばしごと」も、鈴木さんが課題と仮説を形にしたものだ。「茨城の企業と求職者のマッチングの場が少ない」と気付き、クリエイティブの力で企業の想いを可視化することで解決できるのでは、とウェブサイトを立ち上げた。さらに、茨城のクリエイターが顕在化されず地元企業とうまくマッチングできていないという課題を見出し、記事作成に地元のライターやフォトグラファーを登用して「クリエイティブの地産地消」を試みている。うまくいかなくても、衝動を実行に移すことが大切だと鈴木さんは言う。

「僕にとって、この採用も『衝動』です。したいと思って、じゃあやろうと。だからと言って暴れん坊が欲しいっていうわけではないです(笑)」

この採用の話を聞いたとき、正直「なぜこの経済が低迷している状況で?」という思いがあった。しかし、コロナ禍だからこそ行き着いたお金の使い方であり、鈴木さんが元来大切にしてきた「punk.」なのだと納得をした。

「成長は、苦しさであり楽しさである」

この言葉にたじろがないほどデザインに惚れ込んだ人はぜひ、インクデザインの扉を叩いて欲しい。

Writer Profile

栗林 弥生

1982年水戸生まれ、Uターン型ライター。報道カメラマンの父に憧れ、東京の番組制作会社でドキュメンタリーなどの番組を制作。現在は水戸で子育てと仕事の両方を楽しむ。人柄に触れるしみじみとした話を聞き、書くことが大好物。

Photo:平塚みり

募集要項

企業名 インクデザイン合同会社
ホームページ https://incdesign.jp/
住所(勤務地) 本社:〒130-0014 東京都墨田区亀沢4-21-3 co-lab墨田亀沢
日立支店:317-0072 茨城県 日立市弁天町1-9-1 2F
勤務地:原則テレワーク
雇用形態 正社員・パート
募集職種 1.ディレクター(コーポレートツール・IRツール)
2.Webデザイナー(HTMLの知識のある方)
3.デザイナー(IRツールのデザイン経験ある方)
採用人数 若干名
給与 能力、経験、年齢を考慮し決定
待遇
福利厚生
社会保険、雇用保険、雇用保険
テレワーク手当、名刺手当
勤務時間 10:00~18:30
休日 土日・祝祭日
仕事内容 デザイン業務
必要な資格、経験、学歴 特になし
選考プロセス インクデザインホームページをご覧頂き、インクデザインホームページのお問合せフォームからお問合せください。