ニュースやSNSなどで耳にする機会も多くなった「SDGs」。

SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。この目標は、17のゴール・169のターゲットから構成され、先進国・発展途上国問わず取り組む普遍的なものとして定められています。

世界中の国や企業がSDGsに取り組んでいる中、もちろん日本でも様々な企業や団体がSDGsの考えを取り入れた取組みを行っています。では、茨城県の企業は、SDGsをどのように取り入れているのでしょうか?

今回は、SDGs公認ファシリテーターでもあり、筑波山のカフェ「CAFE日升庵」の経営、筑波山の古民家「小林邸」を活用した場づくりを行う、株式会社GoUp代表の野堀真哉さんにご自身の仕事や活動、その中に取り入れているSDGsへの意識についてお話を伺いました。

ーSDGsを知ったきっかけは?

僕は青年会議所に所属しているのですが、2019年1月の「日本青年会議所京都会議」に事務局として参加したときに、「全国700以上ある青年会議所でもSDGsを積極的に取り組んでいこう」ということが採択されて、その時にSDGsについて興味を持ちました。

―SDGsのどんな部分に興味を持ったのでしょうか?

一番興味を持ったのは、「継続可能な社会をどのように実現していくか」というところですね。

以前、ニュース記事で「AIがシミュレーションした日本の2050年の世界は『都市集中型』と『地方分散型』の二つのシナリオがある」というのを見たんですね。将来的にそうなっていくのか、と考えたときに自分は地方分散型の社会に興味を感じていたので、「どうしたらそういう社会に近づけていけるかな」ということを考えていました。

京都会議があったころは、丁度「小林邸」を購入するために大家さんと物件の交渉をしていた時だったんです。

小林邸というのは、筑波山の「つくば道」という道の中にある、江戸時代から続く名家の建物。空き家になっていたところを受け継いで、それを今、いろいろな人たちが集まれるような場所にするためのリノベーションしているところです。

小林邸の大家さんから話を聞いたり、地域のことを深く知っていったりしながら、「この家を買うからには、この家の歴史を紡いでいかなくてはならない」と思いましたし、小林邸や筑波山の地域全体を考えたときも、「地方分散の社会にならないと、人がいなくなる」「人がいなくなると語り部や生活が無くなる」「最終的に文化が死んでしまう」と思ったんです。

その場所に根付いているものや文化、歴史が死んでいくのを何とか食い止めるためにはどうしたらいいのだろうか?ということは、SDGsを知る以前から意識していました。

小林邸や日升庵のある筑波山界隈の地域は、今どのような様子ですか?

もともと、つくば市筑波というエリアで日升庵を始めたときは、場所を介して人と出会い、お店に来てくれる人たちに茨城の良さや、筑波山にある周辺のお店を紹介する「茨城の魅力を表現する場所」にしたいなと考えていました。

でも、お店をやりながらこの地域について徐々に知っていったのですが、空き家率が35パーセントで、おそらく高齢者率も70パーセントぐらい。若い人たちはつくばエクスプレスの沿線に移ったりして人も少ない。つくば市自体は人口は増えているけど、筑波というエリアはすごく人が少なくなっています。

そこで、「どうしたらこの地域を良くしていけるか」と考えたときに、SDGsの考え方が一番しっくり来ました。

地域の継続性を考えたときに、野堀さんが必要だと思っていることは?

SDGsのミーティングなどに参加していて思うのが、継続的な取り組みをしていくためには、一つの業種だけでなく複数の業種でコラボレーションすることはすごく大事じゃないかと思っています。

僕の場合だったら、この小林邸に特定のカラーを付けず、色々な人がコラボできる余白のある状態にしたい、と思っているところです。現状だと、小林邸や日升庵のあるつくば市筑波は、外から来た人を受け止めてくれる環境があまりないんですよね。もちろん少しずつ変わってきているとは思っているんですけど。でも、だからこそ「ここに来た人同士の関わりしろ」が作れる場所にしていきたいなと思っています。

―小林邸があれば、小さなコラボレーションが生まれるきっかけになりますね。

なので、まずはいろんな人に来てもらって、外から来た人やこのあたりに元から住んでいる人が顔を合わせられるようにする。

このエリアに「空き家を持っているんだけど、知らない人には貸したくない」という方がいたとしても、たとえば小林邸でちょっとずつ顔を合わせる機会があれば、心理的な壁も低くなる。
小林邸にはコワーキングスペースの機能を付けて、そこで仕事をする人たちが、そのうち筑波エリアの空き家を借りて、そこを事務所にしたり家にしたり、という展開になったらいいなと思っています。

―小林邸や野堀さんが、つくば市筑波での窓口のような役割になるんですね。

僕、本当は風の人になりたかったんですよ。でもいつの間にか土の人になってしまいました。

でも、土の人だからこそできることもあるし、誰かがその役目にならなきゃいけないときに、「自分だ」と思ったんですよね。持続可能な未来を作っていくときに、「その地域で責任を持って開拓していく人」は必要だと思います。

※風の人・土の人とは:地方創生の文脈の中では、「風の人=違う地域からやってきた人、土の人=地元の人」と解釈される。元信州大学名誉教授であり、農学者だった玉井袈裟男氏が立ち上げた「風土舎」の設立宣言が元になっている。

今はまだ小林邸を使えるようにしている段階で、具体的なアクションはまだこれからですけど、つくば市筑波のエリアを、住み続けられる街にしていくために、外から来た人も、地元に住み続けている人も集まれるようなところにしていきたいですね。

―継続性やSDGsの取り組みについて、他業種との情報交換の機会もありますか?

SDGsの勉強会や青年会議所のつながりの中だと、たとえば瓦やさんとクリーニング業者さんがコラボして、屋根に取り付けられた太陽光パネルのクリーニングをしている、という話も聞きます。パネルをきれいにすることで、再生エネルギーを生み出す効率が上がる、けれど、屋根に上がるのに資格が必要だから業種間でコラボするというのもあるそうです。情報交換と言うかSDGsの考え方で大切な「協働」をしていこうと言う流れですね。

―業種や企業によって、「SDGsの何番に興味がある」というものがあるのでしょうか?

何番に興味があるというよりは、「自分の業種・職業は、SDGsの何番に当てはまっているんだろう?」という考え方ですね。

例えば、経営者が、他企業や他業種とのコラボレーションや、自分の会社のこれからを考える時も、SDGsの「2030年までに達成すべき17の目標」があるからこそ「持続可能な未来を目指すために、自分の職業に何を・どんな業種を掛け算したらいいのか?」ということの意思決定しやすくなったと思います。

また、僕がSDGs公認ファシリテーターになったのも、小林邸でSDGsを学ぶゲーム会をやりたかったから。ゲームの中で気づきを得てから事業構築までの流れを企業研修として行ってみたいし、合宿プログラムも組んでみたいんですよね。ゲーム会があるから、筑波山に来るきっかけになったり、参加者の成長機会になったりす。それが、「⑧はたらきがいも経済成長も」だったり「⑪住み続けられるまちづくり」に、そして、「⑰パートナーシップ」に繋がったりするのかなと思います。

―野堀さんが経営者に対してSDGsを伝える機会もありますか?

SDGsの考え方を学ぶ勉強会を、もっと企業の中でできればいいなとは思っているんですよね。

僕はSDGs公認ファシリテーターの資格を2019年の12月に取得したばかりですが、2020年になってから1月と2月に1回ずつ、龍ケ崎市とつくば市でSDGsセミナーの講師をさせてもらいました。埼玉の狭山市でもやりましたね。

茨城県は、「SDGs de 地方創生」の公認ファシリテーターが今はまだ3人しかいないみたいなんです。古河市と水戸市に一人ずついて、あとはつくば市の僕。一つの自治体に一人ぐらいずついれば、もっと色々なこともできると思います。僕もいまSDGsのセミナープログラム組むの楽しいなと思っているところなので、ほかにもっと協力できる方がいたらいいなと思っています。

―経営者だけでなく従業員に向けてSDGsを伝える必要性もありますか?

例えば従業員として雇用されて働いている人も、「17の目標」というアイコンについて知ることで、「自分が今やっている仕事は、社会の中できちんと役立っている」ということを再認識できると思うんですよね。

だからこそ、中小企業の経営者がSDGsのことを知って、自分の組織の中に落とし込んでいけたらいなと思います。社会的な目標がなく、従業員が惰性で働いたり、やりがいを持てないまま仕事をすると結果として生産性も上がらない事もある。そうすると、自分の仕事が社会から切り離されてしまっているような感じになるけど、SDGsについて会社として取り組むことで、「この仕事は社会の中にどのように役立っているか」を理解し、やりがいのある仕事になっていくと思います。

―日升庵のスタッフさんたちとも、SDGsの話をしているんですか?

日升庵では、小さい事ですけれど、SDGsのチラシを作り、紙のストローの使用、紙コップの蓋が必要か聞く、袋を有料にする、といった取り組みをしています。個人店でやっているところは少ないかもしれませんが、こういった小さな取組みから始まって、当たり前のことになっていったらいいなと思います。

そういう取り組みをしながら、スタッフとSDGsについて話したり、「筑波山の中で小林邸や日升庵の役割は何か」ということを話したりしていますね。自分たちの役割を分かってもらうことで、モチベーションも高まりますし、「自分が考えて取り組んだことの結果が出る」となれば、嬉しいじゃないですか。

目標があって、自分で考えながら取り組んで結果が出るのは嬉しいですよね。考え無しに与えられたことをただ取り組むのと、目標や役割があって、考えて前向きに提案しながら仕事をするのとでは、取り組む姿勢が変わりますし。

―日升庵、小林邸、SDGs。いろいろな取組みをされていますが、野堀さんの役割は?

言ってみれば経営者ですが、「まちづくりの会社やってます!」って言いたいですね。

株式会社GoUpを始めたときも、そのつもりだったんです。事業計画書の中に「まちづくりの視点で、良い未来を作っていく法人を設立する」っていう風に書いていて、CAFE日升庵も「街を作る会社の一部門として、飲食店があっても良いのでは」という気持ちで始めたんです。

ゆくゆくは、筑波山をテーマパークにしたいんです。宿泊施設もあって飲食店もあってアクティビティもあって。多様性あふれる楽しい場所にしたい。

でも、いきなり、つくば市筑波の中で勝手に何かが発生する、ということは無い。無いんだけど、ボールにちょっと力を加えると転がっていくような、最初の動かし始める力を作りたい。小林邸はまだ準備中ですが、ここがあることでこのエリアが少しでも良い方向に転がっていけばいいなと思います。僕の会社「株式会社GoUp」っていう名前も、「今より明日がちょっとでも良いものになればいいな」っていう思いで付けたんですよね。

―つくば市筑波を継続可能な地域にしていくために目指していることは?

このエリアの関係人口を増やしつつ、この場所に住んでいる若年人口も増やしていきたいです。

外からこの場所に来てくれる人がいて、地域を気に入ってくれて、ここに住んでくれて。そして、ここに移住してくれた人たちに子供が生まれたら、その子はつくば市筑波生まれの子なんですよね。

かつてこのエリアに住んでいた人たちは、街場の仕事が魅力的で山から離れていった、という事情はあっうたと思うんです。でも今だったらテレワークもきますからね。小林邸にはコワーキング機能を付けて、このエリアでの仕事の仕方や暮らし方を実験できるようにしたいと思っています。それが、魅力的に感じて住みたいって人が増えたら良いな。

―今まさに、小林邸の準備中ですね

この家は、江戸時代から続く名家だったんです。でも、時代とともに息子さんたちが都内に移り住んでいって、土地や建物を受け継げないから、「受け継げる人がいれば、その人に受け継いでほしい」という家主さんの想いがあったんですよね。だから、実際に小林邸を受け継ぐときは、「今までこの家を守って来た人たちの歴史もちゃんと受け継がなくては」と思いました。

この前、家主さんのお孫さんが、小林邸の門に付けられた「小林」っていう表札を取り外しにいらしたんです。そのときに僕が「今までこの家を守って来た方々の想いも受け継いでいきたいです」っていう話をしたら、家主さんの息子さんも喜んでくださって、お孫さんが外した表札を改めて付け直してくださったんです。だから、ここが新たな取り組みを始める場所になっても、「小林邸」という名前は使っていこうと思いました。それに、たとえば何年か先にお孫さんから「この物件を欲しい」という申し出があったら、その時はきちんと渡せるようにしておこうと思っています。

―物件だけでなく地域の歴史まで受け継いでいく、ということですね。

日升庵を始めたときは、歴史や時代を感じて仕事をするとは思いませんでした。小林邸は築125年なんですよ。明治時代の建物。つくば市筑波のエリアをテーマパークのようにしていこう、若年層が住んでくれるようにしよう、っていう街づくりのために、100年以上前のことを考えながら、さらに100年先のことまで考えてます。

僕の取り組みで言うと、SDGsの17の目標で言えば、「⑧働きがいも経済成長も」「⑪住み続けられるまちづくりを」「⑫つくる責任つかう責任」に繋がっていくのだと思います。だからこそ、きちんと目標を定めて、自分がどんなことをやっていく必要があるかを整理するバックキャスティング的な考え方は大切だと思っています。それこそ、ただ目の前のことをこなすだけでいつの間にか2050年になっちゃった、ではつまらないですからね。


ここまでの取材は2020年3月5日に行いました。
2020年4月現在、新型コロナウィルスの感染拡大が全国に広がりつつあります。
その状況をうけ、今、そして事態の収束後のこれから、社会はどのように変化するか伺いました。

―with COVID-19、after COVID-19で社会、特に地方ははどのように変化すると思いますか?

今、緊急事態宣言が全国で出て、出来るだけ外出しないで下さいと政府が言っています。
これまでの観光業や飲食業は不特定多数の人が多く訪れる場所だったので、移動を制限され始めた頃から売上が減ってしまっている状態です。
体力がある大手は持ちこたえられても、零細企業は危機的状態と言えます。

また、人の流れも分断が起こっています。SDGsの考え方で言うと、ネガティブな連鎖にも感じられます。
しかし、少し先を見ると、ポジティブな連鎖に変わって来るのではと思います。
例えば、今までよりもテレワークが進み、通勤時間が減る事で、家族との時間が増えたり、排気ガスが減ったりして環境にも良いかもしれません。
どこでも仕事ができる体制が整うと、一極集中よりも感染の危険が減るので、人口が地方に分散し始めるのではないのかなと思います。
様々な業種があるので一概に言えませんが、製造業の国内回帰で仕事が増えたり、人口が増えればその土地に多種多様な産業が必要になってきます。
そして、どこでも働けるようになれば、一時期よりも起業するリスクが減るかもしれません。高い家賃を払わなくても会社が回せると思いますし、シェアリングエコノミーが増えて行くかもしれません。

どのような未来になっても、捉え方一つで行動は変わりますし、大切なのは適応だと考えています。社会の前提が変わっても豊かな生活を送りたいと言った、本質は変わらないと思います。そう言った意味では、豊かさの基準が見直されるのではないでしょうか。

SDGs的な考え方だと、「change」(変わる)ではなく「transform」(変容する)くらい先が見えない今だからこそ、バックキャスティング的な考え方で未来を作って行きたいですね。

Writer Profile

佐野 匠

1985年茨城県下妻市生まれ。20代半ばに東京から地元に戻るも、キャリアもスキルも学歴も無かったため、悩んだ末にボランティア活動に参加し、その中で写真、文章、デザイン、企画、イベント運営などのノウハウや経験値を蓄積。最近やっとライターやフォトグラファーの仕事を頂けるようになりました。カッコいいと思うものは、マグナム・フォトとナショナルジオグラフィック。

Photo:鈴木 潤