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『コーヒーを通じて「ただいま」と言いたくなる場所をつくるお手伝いをする』 というミッションを掲げ、2018年1月にコーヒーの焙煎・販売を行う専門店「ただいまコーヒー」はオープンしました。 ただいまコーヒーはコーヒーの焙煎・製造以外にも地域創生を目指し、多彩な取り組みを続けて着実に地域での存在感を増しています。 そして2020年6月、新規店舗「コーヒースタンドGENAKN」をオープン。 この新店舗は、企画からクラウドファンディング、内外装の設計から実際の運営までを代表の和田昂憲さん自身ではなく、パートナーである神定祐亮さんに委ねたとのこと。 「GENKAN」オープンまでの経緯とそれに伴う和田さんと神定さんの心の動きについて、お2人それぞれに詳しく話を伺いました。加えて、新メンバーの朝倉遥奈さんにも、「ただいまコーヒー」への加入の経緯や仕事のやりがいについて話していただきました。

まずは、「ただいまコーヒーをはじめた人」の和田さんからお話を伺いしました。

個人商店からチームへ進化したい
新店舗をやるという構想は、ただいまコーヒーを創業して1年経ったくらいから持っていたんです。そのあたりからチャンスをうかがっていて、土地を探したりしていたのですが、2019年の暮れにご縁があって、条件のいい場所に出会いました。
ただいまコーヒーの初期から一緒にやっている神定とかなり話し合って、やってみようと決めました。そこから一気に準備を進めていきました。

なぜ新店舗をつくろうと思ったか。
いちばんには、ただいまコーヒーに来てくださるお客さまから求める声が大きかったことがあります。ただいまコーヒーは基本的に「ラボ」、つまり焙煎して商品をつくって販売する製造販売所なので、「ここのコーヒーをゆっくり座って楽しめる場がほしい」という声をたくさんいただいたことが大きかったです。

もうひとつは、「ただいまコーヒー=和田」というイメージを徐々に払拭していきたかったということがあります。それは創業1年目あたりから徐々に感じていたことなのですが、やはり僕ひとりでやれることには限界があって、自分としては、組織の中で自分にしかできない仕事に時間を使っていくことが必要だと思ったんですね。それが組織のためになるし、結果としてお客様のためになる、と。
同時に、ただいまコーヒーのメンバーは、僕だけじゃない。他にもめちゃくちゃチャーミングな人間がいるんですと示したかったということもあります。長期的には、僕だけじゃなくてメンバーにも個性を活かして活躍してほしいというイメージをもっていますので、その一歩を踏み出すという意味もありました。


そして、もうひとつ。パートナーである神定に、ゼロから自分で新店舗を立ち上げる経験をしてもらいたかったっていうことも大きいです。とにかく苦しんで欲しかった(笑)。それに尽きますね。
僕は、彼をただいまコーヒーに引き入れて一緒にやっていくと腹をくくったときから、2人同じ視座でやりたいとずっと思っているんですが、実際にはまだ差を感じている部分もあって。彼の場合、その差は何かなと考えたときに、やはり裸一つになって、自分の名前で勝負して、失敗も重ねて、それでも応援してくれる方の存在の大きさを知ったりする・・・・ということなのかなと思ったんです。

彼は前職のコーヒーチェーン店で新規店舗を立ち上げに関わった経験があるんですが、ゼロからの立ち上げの苦労はまったく違う。僕の傘の下からちょっと離れて、自分の名前で勝負することでいろいろ気づきがあるんじゃないかなという想いがありました。その経験を得ることで、より僕ら2人が対等な立場で話しができるだろうと思ったんです。

そんな考えから新店舗は、コンセプト、クラウドファンディング、デザイン、内外装、メニューに至るまで、基本的にすべてを神定に任せました。彼が「やる」と言ったので、じゃあ僕は全力でサポートするよ、と。立ち上げまでは、5日に1回ぐらい進捗を教えてもらい、手取り足取り教えるのではなく、聞き役に徹して、必要があれば僕の意見をフィードバックしていくことを繰り返していました。

彼のバリスタとしての強みを生かす店に
「GENKAN」という名前も、神定の提案です。ただいまコーヒーの方針ともぴったり合って、立地や店に求められる役割を表現していて素晴らしい発想だと思いました。じつは初回の提案はひどかったんですけどね(笑)。その後熟考して、この素敵な名前を決めてくれました。

新店舗の立ち上げとオープンしてからの詳細は、神定と朝倉に譲りますが、ひとつ僕からお伝えしたいのは、「GENKAN」のメニューは、エスプレッソベースになっているということ。つまり、バリスタ=プロの抽出技師の味を提供する店になっているということです。
やはりバリスタといえば、エスプレッソ。そこは神定の強みでもあります。彼は大手コーヒーチェーン店でずっとエスプレッソマシンを使ってラテなどを扱ってきた経験があって、抽出については僕よりずっと知識を持っています。エスプレッソは、マシンで抽出するとはいえ、タンピングという圧力をかける度合いとか、使う粉の種類やグラム数、温度、ミルクの温め具合などで、泡の立ち方も全然変わる、非常に奥深い世界です。「GENKAN」では、そういうエスプレッソベースの飲み物の楽しさを味わっていただけます。

クラファン前に訪れた好機
新店舗の場所が決まって具体的な話をしたのが2019年の年末。オープンまで6ヵ月しかありませんでしたから、神定には相当な負荷をかけました。途中、彼がかなり感情的になって、「きるならきってもらっていいんです!」みたいなことを言ってきたこともあって、綱渡りのコミュニケーションもありました。その後謝りにきてくれて、計画が変わることはなかったですけれど。内心はヒヤヒヤでした。

僕らにとって大きかったのは、クラウドファンディングの前のタイミングで、事業発表の機会を得ることができたことです。新店舗が入るビルの2階・3階に入っているHUB Square HITACHIのメンバーにプレゼンする機会を2回ほど設けていただいたんです。そのプレゼンに向け、神定にはまず僕相手にプレゼンしてもらい、ブラッシュアップを重ねていきました。
やはり、外部の方に向けて、なぜ彼があのタイミングであの店をやるのかという「ストーリー」を説明できることが、クラファンの成功には絶対に必要でしたから。それを事前に固められたことはとてもよかった。
同じタイミングで「常陸フロッグス」の菅原さんにも神定のメンタリングに協力してもらって、彼の強いところ・弱いところを探ってもらい、結果、幼少期の体験や家族との関係に辿りついて、そのこともクラファンの文章に生かすことができたのではと思います。彼の人生にとって良い内省の時間になったんじゃないかなと思いますね。
そういうステップを踏めたので、神定はクラウドファンディングの文章は思ったよりスムースに書けたと言っていましたし、たくさんの方のご支援を得てクラウドファンディングは成功することができました。支援してくださったお一人おひとりに心から感謝しています。


同じ価値を共有する集合体になるために
僕の考えとして、新店舗を始める前にその理念や事業計画はカッチリ決めておきたかったのですが、実際、今は本当に走りながらです。だから現場の神定や朝倉はめっちゃ苦しいと思います。
でも、すごくいい経験しているなと思います。彼らがもがいて苦しみながら、「GENKAN」を自分事として、これがやりたい、あれが欲しいとかどんどん言ってくれるのがすごく嬉しいですね。

「GENKAN」ができて僕自身に起きた変化といえば、店舗が2つになったことで、目の届かないことが発生しているということですかね。頭で想像はしていましたけども、こんなにわからなくなるんだという実感があります。だから、これまで以上に僕が何を考えているのかを開示したり、任せるところは大胆に任せていく必要があるなあと。そうしていかないと、神定や朝倉を悩ませることになるのだと痛感しています。そこは、僕がしっかり成長しなきゃいけないなと思っているところです。

お陰さまで店舗も増えてさらに忙しくなり、新しいメンバーが必要になっています。
ただ、僕はやっぱり人選びには慎重になるところがあって、手を動かしてくれる人なら誰でもよいというのではなくて、その人の自己実現のためにこの組織が役立つような関係を築きたいし、株式会社ただいまは、そういう人たちの集団でありたいという気持ちは変わらないんです。神定と朝倉だけでなく、slackでつながっている都内のメンバーも含めて、僕にとって現在のメンバーは関われば関わるほどお互いの人生が豊かになるようなパートナー同士だなと思っているので。新しく入る人ともそういう関係を築きたい。


これからの時代に、正社員やアルバイトをいっぱい抱えて企業が成長していくようなイメージは、正直僕は抱いていないんです。ただいまコーヒーに関わってくれる人がそれぞれ自立した上で、事業なりを進めて、それをひとりで戦って進めるんじゃなくて、みんなで支え合って大きくしていくような、そういう集合体になっていけたら素敵だなと思うんです。
最近、カフェに限らず起業したいという人から相談を受けることが多くて、そんな中で強く感じていることです。求められるのであれば、僕が経験してきたことでよければノウハウを共有したいし、僕らは小さな小さなローカルの集団だけど、そういう同じ価値感を共有する人がいっぱい集まって、それぞれのライフスタイルの中でそれぞれが事業を進めていって、それでもし余剰利益が出た人は、たとえばそれを少しポケットに集めて、新しい人をみんなでそれを応援するとか、そういう集合体になっていったらおもしろいなって、最近はそんなことを考えています。
「GENKAN」は、そんな僕の夢に近づくための、最初のステージであり、いろいろな経験を積むための実験の場なんです。

次に登場いただくのは、「ただいまコーヒー」の創業者・和田さんの右腕として、事業の推進に邁進していた神定祐亮さん。 和田さんから神定さんに「新しい店舗の開設を主導せよ」という重大なミッションが命じられたのは、2019年の年末のことでした。このゼロからの新店舗づくりに神定さんがいかに挑み、どうやってオープンまでこぎつけたのか。現在の「GENKAN」の運営状況を含め、率直な想いを話していただきました。

舞台となる場所のリサーチから着手
2018年に和田に誘われて「ただいまコーヒー」にジョインしたとき、すでに「座ってコーヒーを飲める場所をやろうと思う」という話は聞いていたんです。僕自身、以前コーヒーチェーン店に6年くらい勤めていたので、そこでの経験を生かすような場には携わりたいと思っていました。

ただ、以前の職場で新規店舗の立ち上げを経験したことはあったのですが、それは、整えられた場所に店長や副店長として人が配置されていくというもの。今回のような本当に何もない、いわゆる0から1に持っていく体験というのはしたことがなく、かなりプレッシャーと不安感はありました。 もちろん、和田は僕を信頼してくれて「経験してみろ」という意味でこの機会をくれたのだと思います。その信頼に応えたいと思いましたし、ただいまコーヒーを地域の方々に違った形でアプローチするために、きっとこの場は必要だったんじゃないかなと思います。

この場所でやるぞって決まったのが、2019年末でしたから、かなり急展開ではありました。準備もまったくできていないですし、まして年明けてすぐに構想に着手しないとスケジュール的に間に合わない計画でしたので、2019年から2020年は、頭を抱えたままの年越しとなりました(笑)。

最初に着手したのは、場所のリサーチです。
ここは、日立駅から徒歩5分くらいの、大きな欅が植えられた広い歩道に面した、日立の街の真ん中と呼べる素晴らしいロケーションなのですが、正直にいうと人があまりいない印象があって、大丈夫かなと感じていたのも事実です。
でも、いざ足を運んで周辺を自分の目で見てみると、通勤時間帯の朝7時から9時までと17時から18時までには、かなり人の流れがあり、1日を通して最大で平日3000人は店の前を通る場所だったんです。このリサーチによって新店舗に対する可能性の広がりを実感することができました。


10年後も日立の街のシンボルとなるように
店舗開設の資金は、ただいまコーヒーと同様に新店舗もクラウドファンディングで支援を募ることになりました。でも、僕自身はクラウドファンディングを行った経験がなく、店舗のコンセプトもこの時点でまったく固まっていなかったんです。
考えた末に、コンセプトを「まずは自分がワクワクするお店にしよう」と考えました。
僕自身のこれまでの背景を振り返ると、人と繋がっていたい、人を笑顔にしたい、そしてみんなに認められたいという、そういう欲求が人一倍すごく強い人間なので、僕自身のワクワク感を満たす店のイメージと、店の前を通る方のニーズとを上手くリンクさせられればと考えました。
幸い、クラウドファンディングの前に、このビルに入るHUB SQUARE HITACHIのメンバーの方々に、新店舗のコンセプトをプレゼンする機会をいただきました。そのための準備や練習を和田相手に続けられたことが、コンセプトづくりや想い、覚悟みたいなことを固めることとなり、クラウドファンディングの準備をスムーズに進めることにつながりました。

とはいっても、その時点ではイメージの1割くらいのことしか考えられていなかったです。
バリスタとしての自分が格好よく見える大きなカウンターを真ん中にポンと置いて、あとは店舗として法律上の決まりをクリアするようにDIYしていけば内装はOKだろうと。そのくらいのことしか考えていなかった。
ですから、何よりも店舗名が決まらなくて、そこは苦労しました。年明けから2ヶ月近く考えていたのに、自分がコンセプトを深く掘り下げられていなかったので、自分自身でもしっくりくるものが浮かばなかったんです。
初回、和田に店舗名を提案したときは、今とは別の名前だったのですが、そのひどさに和田は本当に頭を抱えてかなり気まずい表情を浮かべていました。すごく寒いネーミングだったと自分でも振り返って思います(笑)。

そこからもう一度自分の内面や、リサーチしてわかった店の立地、そこを通るたくさんの人たちのこと、街のシンボル的な場所にできる店になるので、これから10年後20年後の日立の街のイメージを考えているうちに、自然と浮かんだのが今の店名です。
思いついた瞬間に、それまでの不安や行き詰まった感覚、心を縛るものがすべてほどけていく感覚があったので、この案は自信を持って和田に提案できました。
和田もすごく気に入ってくれました。


「GENKAN」の名に込めた2つの意味
「GENKAN」という店名には大きく2つの意味が込められています。
僕、前回の取材でもお伝えしたと思いますが、コーヒーチェーン店を退職したあと、しばらく実家に戻っていたんですね。近所の人に実家に戻ったことを何かへんに思われてるかなぁなんて、いつもちょっとした緊張感を持って玄関を開けて外に出ていたんです。
だれにも会いたくないんだけど、玄関を開けたとき、小さい頃遊んでもらった近所のじいちゃん・ばあちゃんとばったり会ったりすると、結局僕は話し好きなので会話してしまう。すると、なんか緊張がほどけていくんですよね。そんなことを繰り返すうち、ああ、こんな玄関先のおしゃべりの雰囲気はとてもいいなって気づいて。新しい店も、こんなふうにお客様の緊張をほどいて、近所の人たちと喋るような感覚を体験していただける店にできたらと思ったんです。

もうひとつ、この名前に込めたことは、今後、新店舗が日立の街に対して果たしていく役割です。 ここは日立の中心にあるビルって言っても僕は過言じゃないと思っています。
以前、この場所のリサーチしていたときに、日立製作所に来ている外国の方々や東京から来ている方々を見かけて、そういう日立市外からくる方に、日立の玄関先だと思って訪ねてもらえる店にできたらと思ったんです。日立に来るたびに「とりあえずGENKANに行こうか」と訪ねてもらえる店に。店名をアルファベットにしたのも、海外の人への訴求を考えてのことです。

バリスタが映えるカウンター、ベンチと土間のイメージ
「GENKAN」というネーミングが決まったことで、コンセプトづくりも一気に進みまして、通勤時にクイックにおいしいコーヒーを提供するには、やはりカフェではなく「コーヒースタンド」がいい、それにはハンドドリップよりもエスプレッソを中心とした商品が向いている、というように、店のスタイルもどんどん明確になっていきました。
内外装についても、それまでは、バリスタとしての自分の姿が映えるような広いカウンターを置くことだけしか考えていなかったんですが(笑)、玄関の土間をイメージして床をコンクリートにしたり、客席にテーブルと椅子ではなくて、8メートルの長いベンチを置いたりと、コンセプトにそう形で具体的に決まっていきました。
僕は絵をかくのが得意なので、絵というか図面もたくさん描きましたね。もちろん最終的には建築士さんに見てもらったりしましたが、カウンターも1ミリ単位で測って図面を描いて希望を伝えてつくってもらいました。そして、床や壁や天井は、基本的にほぼすべて自分の手で塗って仕上げました。


何度も何度ももうやりたくないと思ったけれど…
クラウドファンディングは2020年3月11日に開始しました。目標金額は121万円。期間は1ヵ月。 結果的には、最初の目標をありがたいことに順調に達成でき、ネクストゴールにも挑戦しました。内外装費が予想よりかさみそうだったのと、僕が一番こだわりたいカウンターをさらにグレードアップさせたいという主旨で、設定を200万円に上げて臨みました。
ネクストゴールもなんとかクリアし、セミオーダーの素晴らしいカウンターの設置が実現しました。空間に合わせてバリスタの動きやお客さまの側からの店舗体験を考え、設計した唯一無二ものです。もちろん、とても気に入っています!

僕は今26歳ですが、こんなふうに皆さんにお金を支援してもらって一つのお店を立ち上げるという経験は、そうできるものではないと実感しています。支援してくださった方々には、一生感謝の気持ちを忘れることはないです。

もちろん、辛いこともたくさんありました。それはオープンした今も続いていますね(笑)。 オープンするまでには和田ともだいぶやり合いましたし。本当にもうやりたくないと思ったことが何度もあります。何度も何度もです。
準備段階では僕もただいまコーヒーで働いていたので、営業中はお客さまがいるのでそういう話はできませんし、営業後に準備を進めるわけですけれど、もちろん疲労もありますし、和田は他の活動もあって多忙だったりして、2人の時間はあまりなかったように思います。
それでも、なんとか週に一度は、対面かオンラインで打ち合わせをするようにしていました。基本的に和田は、僕が提案するアイデアに対して本当に壁打ち役に徹してくれて、外部の方にプレゼンする前の大きな障壁としてそこにいてくれました。
だから僕も、今回はすぐに助けを求めるのではなく、本気で頭を使ってアイデアを振り絞らないと納得してもらえないなと覚悟しました。僕自身が心から納得したものを和田に提案し、そこに和田からの鋭いフィードバックが加わるので、相当ブラッシュアップできたと思いますし、和田の打ち返しは本当にさすがだなと思いました。

もちろんその打ち返しの激しさに、何度もへこみましたし、相当イライラもしました。
ある意味では「丸投げ」みたいな状況でもありましたから、途中、僕の好きなようにやっていいんだろうという感覚が芽生えたこともありました。でもそれだと、僕自身も心からは納得できないし、何より「ただいまコーヒー」としてやるということにつながらない。「ただいまコーヒー」の新店舗としての「GENKAN」なんだという基本に立ち返るという当たり前のことが、結果的にクラウドファンディングやその後の準備をスムーズに進める鍵となったように思います。

和田にはこの素晴らしい経験を与えてくれたことに心から感謝しています。逆の立場に立って考えるととっても勇気のいることだと思います。自分は本当に恵まれていると思いますし、「ただいまコーヒー」の一員でいられることの幸せを感じています。


皆さんと一緒にまちのランドマークをつくっていく
オープンしてすぐは、ただいまコーヒーのお客様やご近所の方が多かったのですけれど、3ヶ月経った今では、新規のお客さまがリピートしてくれたり、SNSを見てわざわざ市外からいらっしゃってくださる方も増えています。

人気の商品は、「GENKANコーヒー」です。これは、エスプレッソを使って淹れる「カフェアメリカーノ」で、豆はオリジナルで開発した「GENKAN」ブレンドを使っています。
エスプレッソ発祥の地であるイタリアにはバルというスタンド形式のお店がいくつもあって、出勤前の人が皆お店に立ち寄ってエスプレッソをクイッと飲んでいくんです。僕は、そのスタイルにすごく魅力を感じているんです。ただ、濃いエスプレッソを日立の街に広げるのは難しいだろうと思い、カフェアメリカーノ、いわゆるエスプレッソをお湯や浄水で飲みやすくしたドリンクに着目して、水と混ざりあったときにおいしさが際立つような豆を開発し、提供しています。
「GENKANコーヒー」はとても好評で、お客様の7〜8割の方が注文してくださいます。

店ではほかに、ラテやモカ、季節限定メニューなども提供しています。そのあたりのメニュー開発は、メンバーの朝倉が進めてくれました。
朝倉は、前の職場で僕のセミナーのお客さんとして出会い、その後同じ職場で働いていた人です。彼女は、メニューの開発や製造業務にも情熱を注ぐ人で、僕自身が内外装やクラウドファンディングでていっぱいだった時期に、商品開発を進めてくれる彼女の存在は大きかったです。


今の「GENKAN」を、半年前に自分が思い描いたイメージと比べてみると…、そうですね。方向性はぴったり合っていると思います。達成度は1%くらいですが(笑)。本当にオープン前日の夜中までDIYしていたような状況なので、ハード的にもソフト的にもまだまだ整っていないことばかりです。 でも、クラウドファンディングの文章にもつづりましたが、これから、お客様と一緒に日立の街のランドマークを作っていくことを目標にして、現在の1%を100%にしていければと思います。「GENKAN」がみんなで作る日立のランドマークになればいいなと思います。

ありがたいことに、すでにお店でも「ここで働きたい」と言ってくださる方がいます。 僕としては、コーヒーの知識はなくてもいいので、それよりも、人と繋がることに喜びを感じたり、お客さん同士がそういう瞬間を生み出しているのを見るのが好きと思える人がメンバーになってくれたら、と思います。とくにこれからは、2階3階のシェアオフィスを利用する人たちのコネクターとなるような役割も求められると思うので、そういうことに興味のある方がいいなと、個人的には思っています。
「GENKAN」で働くことが目的ではなくて、その人の自己実現に向かうためにここで働くんだという、自分の夢の実現に対して情熱をもった人と一緒に働けたら最高ですね。

最後に登場いただくのは、2020年4月から「ただいまコーヒー」での本格的な勤務を開始した朝倉遥奈さんです。以前勤めていたコーヒーチェーン店での接客およびドリンク提供の経験に、持ち前の丁寧な仕事ぶりが加わって、いまや「ただいまコーヒー」「コーヒースタンドGENKAN」双方の運営になくてはならない存在となっています。朝倉さんが「ただいまコーヒー」のスタッフになるまでの経緯と、新店舗「GENKAN」のオープンに向けて果たした役割について伺いました。


不思議な縁に導かれて「ただいまコーヒー」へ
私は、2020年の4月からただいまコーヒーで本格的に働き始めて、現在は、「ただいまコーヒー」と「コーヒースタンド GENKAN」の両店舗で仕事をしています。

茨城工専を卒業後、大手食品メーカーの製造工場に勤務していたのですが、当時からコーヒーが大好きで、一度コーヒーチェーン店のセミナーを受けたんです。そのときに講師を務めてくれたのが、今「GENKAN」の店長を務める神定だったんです。そのときの彼の姿が、なんだかとてもキラキラと輝いていて、「ああ、私もこんなふうに働きたいな」と思ったことをよく覚えています。 勤めていた食品製造工場はとても恵まれた環境でしたが、大きな機械を操作するのが少し苦手だったこともあって退職し、以前からコーヒーチェーン店で働くことがひとつの夢だったこともあり、そこでアルバイトとして働くことにしました。

コーヒーチェーン店での接客やドリンクの製造はとても好きだったのですが、勤務地が遠かったのとシフトが不規則なことで体や心への負担が次第に大きくなってきて、この先どうしようか迷っていたときに、たまたま趣味のカフェめぐりで訪れた「ただいまコーヒー」で、神定にばったりあったんです。そのとき、彼はすでにコーヒーチェーン店を辞めていて、ただいまコーヒーで働き始める直前の時期だったかもしれません。

そこで神定に会ったことにも驚きましたが、それよりも、「ただいまコーヒー」の店に流れる独特のあたたかい雰囲気とか、落ち着く感じに驚き、ここはカフェではないのになぜこんなに気持ちが落ち着くんだろうって不思議に思いました。地域の人々に寄り添うような店の在り方が、そう感じさせたのかもしれないですね。私自身もずっと日立にいてこの街のことが好きですし、その後「ただいまコーヒー」に通ううちに、自分も地域のために働ける人になりたいなという気持ちが、少しずつ芽生えていきました。


将来的な働き方のビジョンへの信頼感
和田から「一緒に働かないか」という誘いをいただいたのは、おそらく新店舗の構想が始まったころだったのだと思います。じつは、当時勤めていたコーヒーチェーン店でも、家に近い勤務地に異動できることになり、そのまま働くか「ただいまコーヒー」を選ぶかとても悩んだのですが、和田とゆっくり話す中で、私自身の将来的な働き方まで考えてくれていることに大きな信頼を感じ、ただいまコーヒーで働くことを選びました。

前の職場をすぐに辞めることは難しかったので、最初は週に一度、4時間だけの勤務から始めました。和田も神定もとにかく忙しい人なので、一度教えてもらったことは決して忘れず確実に覚えるように心がけ、ノートを取り、それを家で見て復習して練習したりしていました。 フルで勤務するようになったのは今年の4月からです。今は、毎日、「ただいまコーヒー」での製造業務と「GENKAN」での接客・ドリンク提供の両方を担当しています。

「GENKAN」の店舗準備については、クラウドファンディングや内外装は神定がすべてやってくれましたので、私はオープン後に提供する商品のレシピ開発を一生懸命にしていました。もともと理系の人間なので、分量をはかって違いを検証したりすることが得意なんです。メニューってとても大切ですし、せっかく自分にまかされた役割なので、時間をかけてよりおいしいものをと考えました。 そうこうするうちにクラファンが始まったのですが、その結果には、本当に驚きました。2週間でもう目標の8、9割が達成できて、応援してくださる方がこんなにいるという嬉しさと、いよいよ本当にオープン間近なんだなという緊張感を同時に感じました。

「ただいまコーヒー」の輪が街に広がっていく実感
「コーヒースタンド GENKAN」は、2020年6月17日土曜日に無事オープンしましたが、今もまだいろいろと決めていくことが多くて、本当に小さな備品のひとつから自分たちで決めなきゃいけない大変さを改めて実感しています。
でも、毎日大変だけれど、本当にやりがいのある仕事に就くことができ、充実感というか生きがいを今は心から味わっています。

日立の街の玄関となることをイメージしてつくった「GENKAN」は、今、私たちがオープン前に想像していたとおりの理想的な使われ方をしていると思います。毎朝、会社に行く前にコーヒーを買いに立ち寄ってくださる方も多くて、お客様から「行ってきます!」「今日もがんばってきますね」みたいな言葉が聞けると、あぁ、ほんとにこういうお店にしたかったって胸がいっぱいになります。

今は、クラファンで支援してくださった195名の方お一人おひとりに、お礼の手紙を書いています。
時間はかかりますけど、もともと手で文字を書くのが好きですし、そういうお客様とつながるメッセージはいつでも気持ちを込めて大切にしたいと思っています。ネット通販で頼んでくださるお客様にも、メッセージを添えています。直接お会いできなくても、メッセージを書きながらお客様について考えることが大好きだからです。「美味しかったです」「メッセージ嬉しかったです」というお礼を頂けたときは、とても幸せな気持ちになります。

「ただいまコーヒー」に勤め始めてから、自分の新たな一面を発見できたと思っていることがあって、私は接客ももちろん好きなんですけど、コーヒー豆のパック詰めのような一見地味な裏方の業務もすごくやりがいのある仕事だなと感じているんです。
自分たちのコーヒーが、お客様お一人おひとりの手に渡っていくことを考えながら作業するのが、すごく楽しいんです。「ここのコーヒーを知人からもらってすごく美味しかったら買い来ました」という方も多くて、そんなとき、「ただいまコーヒー」の輪が広がっていると実感します。
もっとその輪を広げていきたいですし、それにはやっぱりパック詰めとか一つひとつの地道な作業を丁寧にやり続けていくことが大切だなと思っています。最近は、製造業務が自分のひとつの生きがいになっていて、いずれは私も、和田や神定と同じように豆の焙煎までできるようにぜひなりたいなと思います。


「ただいまコーヒー」「GENKAN」で働くと、人とのつながりが増えますし、日立周辺のお店などの情報を、お客様を通じてたくさん知ることができます。日立の新たな一面を知って、日立をもっともっと好きになります。 コーヒーに興味があって、人と話してコミュニケーションをとるのが好きな方、そして、学ぼうとする姿勢を持った誠実な方、そんな方と一緒に働くことができたらうれしいですね。


新しく場を作りチャレンジを始めた、ただいまコーヒー。
そんなただいまコーヒー、GENKANでは新たな仲間を募集しています。 ご応募お待ちしています。

 

Writer Profile

笠井 峰子

編集者/ライター。茨城県東海村出身。20代・30代は都内の音楽出版社/レコード会社に勤務し、主に洋楽関連のコンテンツ制作に従事。2000年に帰省後は、水戸の企画・デザイン会社に勤め、企業の広報誌制作などに携わる。2017年に独立。2019年に取材で「ただいまコーヒー」の和田氏と出会い、彼が推進するコーヒー文化による創造的地域づくりに興味を抱き、「いばしごと」を通じて応募。編集業・ライター業の傍ら、週2日「ただいまコーヒー」に勤務し、コーヒーのイロハから学ぶ日々を送る。

Photo:鈴木 潤