新しい働き方の浸透や、コロナ禍での生活を経験した昨今、自分や周囲の変化を意識した人も多いのではないでしょうか。自分がしたいこと、どこで、誰と働きたいのかをもう一度見つめ直した人もいるかもしれません。

昨年、東京からふるさとの茨城にUターンした飯塚菜月さん。

茨城の良さを証明するために、そして将来大好きな茨城に関わるためのスキルを得るために、一度は上京した飯塚さんが、手探りで動き続けた日々の中で見つけた出会いや、行動して得たもの、一貫して変わらない茨城への思いについて伺いました。

—はじめに、飯塚さんが今されているお仕事について教えてください。

昨年の12月に茨城県にUターンして、水戸市にある旅行会社・アーストラベル水戸株式会社(以下アーストラベル)に入社しました。現在はツアーの手配など事務の仕事や、修学旅行・校外学習の添乗などを行なっています。

転職し水戸市で働く事になった経緯は何だったのでしょう?

昨年の夏頃に、「転職についてもやもやしているんです」と以前「if design project」というプログラムに参加した際、お世話になった事務局の鈴木高祥さんに相談に乗って貰っていたんです。偶然にも同じ頃、アーストラベル代表の尾崎さんも一緒に働く人を探していると鈴木さんに話をしていたそうで、そのご縁を繋いで頂きました。

※if design project
異なるバックグラウンドを持つ仲間たちと共に課題解決の企画を行うプログラム。約3ヶ月間、茨城と東京で、自分たちだったら茨城県に対して何をやるか、何ができるかを、その後の実践や継続的な活動までを見据えて、企画・デザインしていく。
https://if-design-project.jp/

もちろん尾崎さんと私に面識は無く、zoomでの面談がはじめましての顔合わせ。2度めに直接お会いしてお話を伺ったのですが、尾崎さんは「飯塚さん」と私の名前が入った説明用の資料を用意してくれていて、入社したら任せたい仕事の話や今後アーストラベルが目指す姿を丁寧に説明して下さったんです。
その日は「ああ、この人は私だけのために説明してくれているんだ」と嬉しくなったのを覚えています。

それで、転職を決めるのですね。今回は東京からのUターンとなりましたが、元々茨城で働く事は考えていたのでしょうか?

私は生まれ育った茨城が大好きで、実は高校から大学に進学する際もギリギリまで上京を迷ったくらい。結局は、東京の大学へ入学を決めるのですが、その時は「絶対4年後には茨城に戻って就職する」と決意していました。

そんなに茨城が好きなら、どうして上京を?と思われるかもしれませんが、茨城の良さを証明するためでもあったんです。

高校卒業を前にした同級生の間では「茨城は何も無くてつまらないから、進学で家を出たら茨城には戻らない」と言う声も多かった。私は、それが寂しくて悔しかったけれど、茨城のどこが良いのかを問われると、きちんと説明出来ずにいて……。

それならば、私が一度茨城を離れて、それでも茨城が良い場所だと言えたなら、それが何よりの「茨城が良いところ」だという証拠になるんじゃないかと思ったんです。

—茨城への愛を証明するための上京だったのですね。

はい。ただ、大学卒業後は、結果として茨城には帰らず、東京で人材系の会社に就職しました。それまでと変わらず「茨城が好き」という思いは固かったので、その会社の行う地方創生事業に惹かれて入社を決めました。

営業部で数年経験を積んだ後、業務で「茨城の地方創生事業」に携わることを目標にしていたのですが、営業職が私には合わなかったようで、体調を崩してしまって。

私は真面目すぎて融通が利かないところもある性格。毎日の膨大な仕事を前に、疲れてしまったのかもしれません。上司に相談して、別の部署に異動させて貰いました。

そんな状況でも、転職やUターンは、その時はまだ考えられずにいましたね。安定した仕事を変える勇気も無かったし、将来的に大好きな茨城に関わる仕事をするために、今はスキルや経験を東京で得たいという気持ちが大きくあったんです。

—今回、その決意を変えてUターンを決意した理由は何だったんでしょうか?

いくつか理由はありましたが、Uターンを後押しした一つのきっかけは、if design projectへの参加です。

東京には友達も大勢いるし、お付き合いしているのも東京で知り合った人。仕事は大変だったけれど同僚や先輩にも恵まれ、仕事について相談できる環境もある。だからすぐにUターンは考えられない……。そんな私が、「今、東京にいながら茨城に対して出来る事は何だろう」と考えていたところに見つけたのがif design projectでした。

if design projectは講義やフィールドワークを通して茨城の魅力や企業が抱える課題を学び、チームごとに課題解決のための企画を作るという実践的なプログラムで、一緒に参加しているのは、茨城以外に住んでいるけれど、茨城と関わりたいという思いのある人たち。
はじめて参加した時、「ああ、私の他にも茨城の事を思っている人たちがこんなにいるんだ」と心強く思えた記憶があります。

何より、そこで出会ったメンバーたちが、次々行動をおこしたり、茨城へ移住やUターンするのを見て、とても刺激を受けました。「え、そういう生き方もありなんだ」と。それまで私の頭の中には固定された生き方や働き方のイメージがあったようで、「そうじゃない生き方もある」と気付かされたんです。
そこで出会った仲間とは今でも交流はあり、転職時にもたくさん相談させてもらいました。

—if design projectに参加してみてどんな事が変わりましたか?

if design projectの参加者の多くは社会経験が豊富で、同じチームのメンバーも自分のスキルを生かして、課題や企画をまとめてくれていました。かたや私は社会経験2年未満。提供できるスキルは持ち合わせていなくて、最初は焦る気持ちばかりありましたね。

ただ、普通に過ごしていたら知り合うことすら無かったかもしれない、様々な仕事や生き方をしている人たちと一緒にいられるこのチャンスに、何かを得て帰らねばという気持ちが勝ったんです。

私はマーケティングもデザインも出来ないし、これといって専門分野はない。だけど「聞く事」は出来る。そう思って、質問も沢山したし、フィールドワーク以外でも企画を完成させるための意見交換を盛り上げたくて、Slackやmessengerで何度も自分から声をかけるようにしました。

カッコつけずに言うと、「どう思いますか?」とひたすら質問をぶつけたり、分からないことがあった時に「助けてください!」と声をあげる賑やかしだったんですけれどね。

それでも、「学ぶだけでなくて実践して良いんだ」と気付き、実際に動いてみた経験は大きなものとなりました。

—他にもきっかけはありますか?

もうひとつ、私のUターンを後押ししたものは、このコロナ渦で発令された緊急事態宣言。東京から出られないという体験でした。
それまでは、事あるごとに実家のある水戸市に帰って来ていましたし、大好きな茨城を思いながらも東京で働くことが出来たのは「帰りたい時に帰ればいい」という心の支えがあったから。
でも昨年の春は、それが一切出来なくて、「帰れない事があるんだ、会いたい人に会えなくなる事があるんだ」と衝撃を受けたんです。

その時、そんな状態になりながらも悩んで動けずにいた私に、そばで見ていた彼氏が「今後どうしたいのかをしっかり考えて行動した方が良い」とアドバイスをくれた事もあって、私にとって自粛期間は、ずっと家の中で「今後自分はどうしたいのか」「どうしたら後悔しないのか」を考える時間となりました。その時、時間はたっぷりありましたから。
もう、ずっともやもやしたまま、仕事や状況に文句を言い続ける自分は嫌だったんです。

—家でじっくり自分と向き合える自粛期間が良い時間になったのですね。出した答えは何だったのでしょう?

どうしたいのかを考え続けて、私はやっぱり、茨城の魅力を発信したり、人や場所をつなぐ仕事がしたいと思いました。「大好きな茨城に関わる仕事がしたい」という揺るがない気持ちを再確認出来て、転職活動を始める事に決めます。

そうはいっても、Uターンがすぐ出来るとも思えなかったので、茨城の企業である事を転職の絶対条件にはせず、場所や人の魅力をPRする仕事に転職し、将来的に茨城に貢献出来たらと考えました。

まずは転職エージェントに登録する事にして、その条件で会社を紹介して頂いたのですが、前職と同業界である人材営業の仕事を紹介された事もあり、あまりやる気が持てなかったのが正直なところで……。オンラインで行われた面談の後「私はこのまま画面越しに嘘をはなし続けていくのか」と自問自答したのを覚えています。

—転職活動では、何社か候補があった中で、現在働くアーストラベルに入社を決めたのはどうしてですか?

鈴木さんに紹介して頂いたのがアーストラベルだったのですが、実は私、茨城の魅力を発信したり、人をつなぐ仕事がしたいとは思っていましたが、例えば広告が作りたいとか、そう言った具体的な方法のこだわりは無くて、さらに言うと、元々は進んで外に出かけるタイプでもありませんでした。

丁度転換期を迎えていたアーストラベルの話を聞いて、ここでなら、私がやりたいと思う事が、「旅行」というツールを通して表現出来ると思って転職を決めたんです。

—会社の転換期とは?

それまでアーストラベルで請けていた仕事の多くは、修学旅行や校外学習、企業の研修旅行など、県内のお客様を県外に届ける事がメイン。新型コロナウイルスが拡大する中、一時的に仕事が大幅にダウンしたそうです。その後は徐々に回復するのですが、それを契機に、これからは県外に人を届ける仕事ばかりで無く、県内外の人に茨城で遊んでもらうコンセプトの商品を作ろうとシフトしはじめたと聞きます。私が尾崎さんとお会いしたのは、丁度そのタイミングでした。

そのお仕事は、まさに私がずっとやりたかった事で、もう少し前だったら入社はしていなかったかもしれません。

—コロナ渦で繋がった不思議な縁だったのですね。入社して数ヶ月たちますが、現在アーストラベルでのお仕事に対して、思うことを率直に教えてください。

入社前は、東京で鍛えられてきたという自負もあり、もっと会社の役にたてるのではないかと思っていたのですが、今となっては、そんな風に思っていてすみませんでした、と言いたい気分です。

転職前の会社は規模の大きな企業。部署によって仕事の内容が分業化されていましたが、アーストラベルでは、案件によってするべき仕事も私の役割も変わるんです。毎回違う仕事を、何も決まっていないところから作ってゆく、はじめての事ばかりが続く日々を過ごしています。

こんなことを言うと、とても過酷な仕事だと思われそうですが、不思議な事にあまりストレスには感じていません。このチームで働くというスタイルが、今とても楽しいんです。

チームメンバーも、複業で他の仕事をしながら一緒に働いてくれている仲間や、多拠点で暮らす人など様々。旅行業界の経験が長くどんな手配や添乗でもお任せ出来る人もあれば、ウェブでの広報など、前職での経験や複業で培った得意なスキルで役割をこなす人もいる。

毎回チームの中での役割を、代表の尾崎さんが決めて「なにかあっても責任は自分がとるから、やってみてごらん」と大きな裁量をもたせて任せてくれています。
何より、今仕事でしている事が、自分がやりたかった事に間違いない事で、それに対する満足感や嬉しさがとっても大きいんです。

—お仕事でも充実した日々を過ごされているのですね。東京から茨城に戻った事で見えたものはありますか?

東京の良さや便利さは間違いなくあって、やはりそれは否定できないと思いました。最新の技術や考え方が導入されるのは東京で、流行や仕事の進め方もすごい勢いで変化してゆく。もちろん仕事のスピード感も速い。

プライベートでも仕事でも、東京では私がぼーっとしていても、たとえ受動的であっても最新のものにシフトする事が出来たのですが、地方では自分から情報を得に動かねば置いて行かれてしまうのではないかと思っています。人との繋がりもキープしつつ自ら動こうと決意を新たにしているところです。

こういった地方のマイナス面に気づけたのは東京での仕事を経験できたからこそかもしれません。だからこそ、地方と東京の良さは比べるものではなく、それでも茨城がいいと思える理由が見つかった気がします。茨城には確かに「豊かなゆっくりさ」もありますしね。

—茨城に戻ってからのお休みの日の過ごし方は変わりましたか。

元々ゆったりした場所で過ごすのが好きなので、実はあまり変わっていないかもしれません。水戸市では偕楽園や千波湖には散歩によく行っています。最近は、自宅の近くを自転車で探索するのも楽しくて。学生時代には無かったお店が出来ていたりと毎回新しい発見がありますね。

私が住んでいる水戸市の良さは、街の真ん中に千波湖があって、そこから少し歩けば買い物をする場所があって、ほんの少し離れると田んぼや畑がある、なんでもある所かもしれません。

—Uターンを終えた今、今後の目標や、取り組みたい事を聞かせてください。

仕事の面では、今はまだ何でも教えてもらっている状態なので、早く覚えて自分で考えてこなせるようにしていきたいです。何より尾崎さんがとても忙しいので早く力になりたいと思っています。

加えて、旅行を今まであまりする方ではなかったので、もっと旅行や家の外で過ごす事に興味を持ってゆきたいですね。最近、車を購入したので、遠出もたくさんするつもりでいます。

プライベートでも、STAND IBARAKIやif design projectの活動も積極的に続けていきたいと思っています。思えばif design projectや転職活動など、思い切って飛び込んだからこそ得た出会いや学びがあり、今があります。今後も自分から動いてどんどん周りの人に関わり、飛び込んで行こうという気持ちは変わりません。個人でもブログやnoteを使って茨城のPRをしていきたいと考えているところです。

※STAND IBARAKI
茨城県の新しい関係人口プロジェクト。独自活動や関わり方を模索している茨城県内外のローカルプロジェクトチームの初動期を応援し、活動と関係人口づくりを促進する。2020年度の開催は25チームがエントリーし、7チームがファイナリスト、3チームがMVPとなった。
https://standibaraki.jp/

—最後に、飯塚さんがコロナ渦に自分と向き合って結論を出したように、今、東京からのUターンを迷っている人も多いかと思います。Uターンに際して、抑えて置くべきポイントを教えてください。

転職先が見つかった事を理由に帰るのではなく、Uターンという選択後にどんな事が起こり得るのかを考えて、それに納得した上で決めて欲しいと思っています。私は1度目の就職では、こんなはずではなかったと後悔した部分が少なからずあったので、なおさらそう感じましたね。

私だって、今後、後悔しないなんて言い切れないけれど、しっかり考えた上で、「それでもこの選択が良いと思えたから行動したんだよね」と納得し、振り返る事は出来るはずと思っています。これからUターンをする人には、自分がどうしたいのかをいっぱい考えて、いろんな人に話を聞いてもらって、いろんな人の働き方や生き方の話を聞いた方が良いとアドバイスしたいです。
そのためにも、イベントやワークショップには積極的に参加をするのをおすすめします。人との出会いは、絶対にマイナスにはならないですから。

Writer Profile

蓮田 美純

1990年茨城県生まれ山育ち。趣味は食べることと暮らすこと。パンと散歩が好き。

Photo:佐野匠